2017年3月4日土曜日

整体実技|股関節痛

第1節 股関節の構造

股関節は、骨盤の一部である寛骨と大腿骨によって構成される関節で、球状になった大腿 骨頭が、臼 状(モチをつくウスのように窪みのある状態)に窪んだ寛骨臼にはまり込むような形になっております。

関節部の骨と骨の連結は、靭帯によって補強されておりますが、股関節は可動範囲の広い じんたい 関節ですので、その動作と安定性保持のために多くの筋肉が関わっています。

主な股関節の筋肉を復習しましょう。
どこにどのように付着している筋肉か思い浮かべられますか。 思い浮かべられない人は筋肉の復習をしてください。

屈曲に関わる筋肉 … 大腰筋・ 腸 骨筋・大腿 直筋など(大腿神経が支配)

伸展に関わる筋肉 … 大臀筋など(下臀神経支配) 半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋など(坐骨神経支配)

外転に関わる筋肉 … 中臀筋など(上臀神経支配)

内転に関わる筋肉 … 大内転筋・長内転筋などの内転筋群(閉鎖神経支配)

外旋に関わる筋肉 … 梨状筋など(仙骨神経支配)

内旋に関わる筋肉 … 外旋作用を持つ筋肉以外は内旋作用を持ちます

★股関節に関わる神経

私が習った整体学院でも、 股関節の治療で一番大切なのは、 T12 と L1 の胸腰移行部の施療だと教えられました。
ちなみに、 腸骨下腹神経や腸骨鼠径神経という股関節に関わる椎骨が、 この T12/L1 からで出ています。
神経の名前から分かるように、 確かに、臨床上、 股関節前面内側の痛みに対しては 効果があります。

★痛みがどの筋肉の痛みか特定する必要があります。

股関節を、 外転・内転・外旋・内旋・屈曲・伸展させて、 どの筋肉を施療するかを特定しましょう。


第2節 股関節痛の原因

① 変形性股関節症

日本人に一番多いのは、変形性股関節症です。
この変形性股関節症は、女性が男性の10倍の罹患率と言われますが、特に女性に股関節痛が多いのは何故でしょうか。 まず、第一に骨盤の形状の違いがあります。男性は逆三角形、女性はバケツ型で、下方が 広くなっています。 そのぶん股関節が浅く、元々ずれやすくなっていますので、股関節の筋肉が弱ったり、 偏った姿勢や習慣でずれや歪みが生じます。
また、出産時には、産道をひろげるために、 恥骨結合・仙腸関節・股関節は広がります。 安静にしていると、出産後は元に戻るのですが、 ずれが大きすぎたりすると元に戻らなくなります。
こうして、歪みやずれがあると、関節を包んでいる 靱帯や、股関節の周りの筋肉が疲労し固くなり、時 間の経過とともに、体重を支える事も歩く事もでき なくなります。
これが股関節痛ですが、症状が進むと変形性股関節 症になり、軟骨が擦り減ったり、骨頭が変形します。

② 先天性股関節脱臼

乳児の時に何らかの原因で、股関節が正常な位置から外れたりずれたりしている状態です。 筋肉が充分に強くて股関節運動に耐えられる内は痛みはないのですが、 筋肉の疲労や弱化で、痛みが出て、やがて変形性股関節症となります。

③ 臼蓋形成不全

大腿骨頭を受け入れている骨盤のくぼみの寛 骨 臼が発育不全で大腿骨頭を充分に包み込 かんこつきゆう めない状態をいいます。 筋肉の疲労や弱化で体重を受け止めきれなくなると、痛みが出て、やがて変形性股関節症 を発症します。


第3節 関節痛の進行過程

正常な股関節 関節軟骨もみずみずしく、円滑な関節運動が行われています。 しかし、安心してはいけません。 変形性膝関節症は、突然発症するわけでなく、少しずつ進行するのです。 もしかしたら、もう進行中かもしれません。 先ず、「股関節が硬くなったかな…」といった可動域の制限から始まります。

前期: 前期の段階での主な症状は、 運動後や長時間歩いた後に起こる
足の付け根の痛みです。 痛みの程度も軽く、いつでも痛みが出るというわけでもないので、 放置されることが多いようです。
大腿骨頭と寛骨臼とがうまくかみ合わず、 関節軟骨の一部の摩擦がひどくなった状態です。 しかし、関節軟骨はまだすり減っていません。

初期: 初期の段階では、足の各部分に起こる痛みです。 運動後や長時間歩いた後などに、大腿後部・臀部・内股などに痛みや違和感を感じます。 坐骨神経痛と間違えられることもあります。 この段階でも、しばらく休むと痛みや違和感がなくなるので見過ごされます。
関節軟骨がすり減ってきます。 大腿骨頭と寛骨臼も時々ぶつかるようになる。

進行期: 股関節に強い痛みが出て、その頻度が増えます。 寝ていても痛むときがあります。 歩き始めから痛みが出るようになり、足を引きずって歩くようになります。 股関節だけでなく腰や膝にも影響が出ます。
軟骨はすり減って、関節のすき間が狭くなり大腿骨頭と寛骨臼がぶつかり合います。 大腿骨頭や寛骨臼にトゲのような骨(骨 棘)や穴があいてきます。 こつきよく

末期 :重症化して末期の段階になると、激しい痛みと股関節
の可動域がが極端に制限されます。 日常の動作も不便になり、他の関節に影響が出るだけでなく、内臓に不具合が生じます。 消化器系・循環器系などの内臓や自律神経に影響が出ます。
関節軟骨もほとんどなくなり、関節のすき間も消失します。 大腿骨頭や寛骨臼は骨棘や穴が増えて、変形してきます。

★ 前期や初期の段階でしたら、少し時間はかかりますが、 整体施療は効果があります。
★ 股関節の変位があっても、 まだ組織的な破壊が始まっていない場合は(前期・初期の場合)、 1 ヶ月に数回の施療で痛みはなくなります。
★ しかし、進行期で組織的な破壊があっても、痛みが少し楽になる事は期待できます。 それ以上の進行を止める効果はありますし…。
★ 理由は何であれ、 何らかの理由で(運動不足・過激な運動・先天性の股関節障害・老化など)、 股関節の機能が低下すると、 軟骨どうしが擦れあって軟骨がすり減り、 その結果、股関節に痛みが現れます。 こうした状態を変形性股関節症と総称します。
股関節の軟骨は厚みがあり、神経がないので痛みを感じません。 痛みを感じた時は相当症状が進んでいます。


第4節 股関節痛の施療指針

① 腰部、背部などの姿勢を保持する筋肉の状態に問題がある場合は、 それらを改善させることで股関節への負担を軽減させます。
胸椎下部は股関節を支配する椎骨ですので、その周辺は特に丁寧に施療します。

② 股関節を動かし、股関節の安定性を保つのに関わる筋肉から、 痛みの原因となる筋肉を探し出して治療します。
臀部・大腿前面・大腿後面・鼠径部のうちで、 股関節の動作と安定性保持のための筋肉の状態を丁寧に調べて、 異常の存在する部分を的確に施療することがポイントになります。

③ 股関節の変位や骨盤の変位は、 股関節の繋ぎ目への負担を増大させ、 股関節が痛慢性化する原因になることがあります。
股関節や骨盤のズレが過度な場合は、 股関節や骨盤の調整を行って、 股関節にかかる負担を軽減させます。
腰背・臀部・鼠径部・大腿部などの筋肉を、 充分に緩める施療をしっかり行った後ならば、 股関節や骨盤は、 簡単なストレッチなどの調整でも十分に整えることができます。

④ 患者さんに、 一日10分程度の股関節運動をやってもらい、 靱帯や筋肉を強くしていけば、 近い将来、つらい痛みから解放されるでしょう。 これが一番大切なことです。


第5節 病院での治療

★ 末期症状では股関節を人工のものに交換されます。
これでも満足行く結果が得られるとは限りません。 痛みが取れるどころか、術後、更に痛みが強くなったり、動きが悪くなったりするこ とが多々あります。
根本的な治療法は病院にいっても見つからないのが現状です。 しかも、人工関節は10年間が使用限度とも言われています。

★ シップ薬は関節の炎症による関節痛の痛みを和らげるものです。 関節炎を治すものではありません。
つまり、シップ薬を使い続けても一時的な痛みは和ぐけれど、根本的な解決にはなっ ていないのです。

★ 最新の治療では、コンドロイチンとグルコサミンで軟骨を作る治療があります。
また、プラセンタ(哺乳動物の胎盤)を注射することにより劇的に症状が改善された ほにゅうどうぶつのたいばん 例も報告されています。
ただ、いずれもその場で治癒するものではありません。それなりの時間がかかります。


第6節 股関節の検査

① 股関節の硬さを検査

割座で、お尻が床につくかどうか。 両足裏を合わせたままの胡座で、両膝が床につくかどうか。 反対側の片膝を伸ばしたままで、片膝が胸につくかどうか。
股関節痛は、関節が硬くなることから始まります。 つかない場合は、無理をしてつけないように注意しましょう。 反対に、股関節や膝関節を痛めてしまいます。

② 股関節の変位検査

1.アリステスト 覚えていますか? 膝の高さに左右差があると、股関節の変位が推定されます。
この検査では、股関節が前方変位か後方変位が推定されます。
痛い側が、変位と考えて良いでしょう。

2.つま先検査 仰臥位における足先の開き方で股関節の変位を推定します。
正常な股関節
右股関節前方変位
右股関節後方変位

3.上方変位・下方変位 股関節の変位には、前方変位と後方変位の他に、 上方変位と下方変位があります。
体重を支える構造上、 寝てばかり、座ってばかりの人以外は、上方変位の傾向があります。
バンジージャンプなどのような外力が加えられなければ、 下方変位にはなりにくい構造です。
下肢を下方に牽引して、痛みがなければ、 上方変位と見なして施療しても良いでしょう。

4.フェーバーパトリックテスト
仙腸関節に起因する痛みと股関節に起因する痛みは、同じように骨盤部に痛 みが出ます。
変形性股関節症・股関節炎であることを見分けるには、 フェーバーパトリックテストがあります。 骨盤部の痛みが股関節が原因であることを鑑別します。
仰臥位の下半身の手技にありますので、 説明は省略します。
股関節後方変位の、 股関節のストレッチにもなります。


第7節 股関節変位に対する整体施療

(1)筋肉に対する施療

結局は、筋肉が緊張して引っ張っているので関節が変位します。 筋肉(腰背部・臀部・大腿部・腹部・鼠径部)の緊張を緩めることが最初です。

筋肉が緩んでいれば、 ゆっくりしたストレッチでも変位は充分に矯正可能です。 アメリカの最新の研究では、 10秒から15秒のスタティクストレッチ(ゆっくりとストレッチしてそのまま保持) が一番効果的と言われています。

大腿後部の筋肉に対しては、少し強い刺激が必要です。 東洋医学では膀胱経と腎経ですね! 解剖生理学では、半膜様筋・半腱様筋・大腿二頭筋・坐骨神経への施療です。

ついでですから、他の経絡施療も紹介します。

胆経の手掌圧
腸脛靱帯や大腿筋膜張筋の施療です。
大転子部の押圧ストレッチは 股関節後方変位の施療となります。

胃経の手掌圧
大腿直筋・外側広筋を施療します。
腹部にも適圧をかけて施療します。 腹部は時計回りに施療できると良いですね。 腹部3:下肢7の圧割合です。

脾経の手掌圧
鼠径部・内側広筋を施療します。
腹部については胃経に同じです。

肝経の手掌圧
鼠径部・内転筋群の施療です。


(2)関節に対する施療

股関節に限らず、歪んだり、ズレている関節に対して、 瞬間的に高速矯正して、 正常な位置に戻す方法は、 スラストと言います。

関節の限度まで、伸ばしたり、捻った上で、そこから、瞬間的に、もう数センチの伸ばしや捻りを加える技です。 関節がボキッとなる療法です。
カイロプラクティックやオステオパシーの手技療法ですが、 アメリカでは6年間かけて研修するものです。
非常に効果が出ることもありますが、 1 年や2年でできる人は天才か、症状が治ったとしてもまぐれです。
厚生省では、頚椎に対するスラストは禁止しています。
毎年、事故が起きていますので、頚椎以外の、腰椎や胸椎でも、 相当に熟練するまでは絶対に行わないようにしましょう。
事故を起こせば、整体師人生は終わりです。

② 上方変位に対する施療

受者の下肢を、約30度開き、30度持ち上げます。
股関節を通常位・外旋位・内旋位で、牽引しなが ら細かく振り動かします。
股関節に押しつけて軸圧をかけます。 その後、限度いっぱいに体重をかけて牽引します。
そこから数センチメートル瞬間的に急激に引きま す。
股関節上方変位に対してだけはスラストも OK です。

② 後方変位に対する施療

1.受者は伏臥位。
受者の股関節部をゆっくりと圧迫しながら、 膝を少し上げて、 10秒から15秒間保持します。

2.受者は仰臥位。
受者の骨盤上部を押さえながら、 膝を10秒から15秒間 後方に圧迫します。
骨盤上部はあまり圧迫せず、 押さえる程度にします。

② 前方変位に対する施療
受者の膝を屈曲して、 臀部に押しつけていきます。
それができるようになったら、 外側に屈曲していきます。 即ち、臀部より外側に曲げていきます。 割座の体勢です。
無理をしないで、 時間と回数をかけて施療しましょう!

③ 股関節の調整

最後に必ず行いましょう!
大転子部を圧迫しながら、 下肢を持ち上げ、 前後にゆっくりと10回ほど、 屈曲伸展を繰り返します。
次に、 大転子部を強く圧迫しながら、 下肢を大きく10回ほど外転させて、 1分ほど圧迫を続けます。
最後に、 約30度外転させた下肢を、 数回牽引して、 限度一杯に伸ばして スラストします。 (何回も言いますが、今の皆さんで スラストして良いのは股関節の牽引 操作だけです)
股関節牽引は股関節のみならず、膝 にも影響します。 膝が痛い場合は止めましょう。

★前にも記しましたが、もう一度確認しましょう。

筋肉が緩んでいれば、 ゆっくりしたストレッチでも関節の変位は充分に矯正可能です。
アメリカの最新の研究では、 10秒から15秒のスタティックストレッチ (ゆっくりとストレッチしてそのまま保持) が一番効果的と言われています。

④ 骨盤変位を矯正すると股関節痛が改善される

骨盤の変位の影響で股関節痛が生じる場合もあります。
例えば、変形性股関節症ですり減った軟骨が元に戻らないと言うのは、骨盤の歪みが原因 なっています。(お医者さんはすり減った軟骨は治らないから、人工関節をと言いますが …。多くの患者さんが整体で実際に楽になっているのです)
正常な骨の中では、古くなった骨を破骨細胞が壊して、骨芽細胞が新しい骨を作っています。 この骨芽細胞は、自律神経の副交感神経から活発に働けと信号を受けると、新しい骨を盛 んに作るのです。 そして、股関節の副交感神経は仙骨から出ているのです。 仙腸関節の変位が骨芽細胞に影響を与えていることは自明の理ですね。

仙腸関節変位という原因が治れば、 軟骨が再生していく可能性は高く、 少なくともそれ以上の進行は止めることができます。 肉体の自然治癒力は、とても大きいものなのです。(老化により衰退しますが…)
股関節の骨芽細胞を支配する副交感神経が圧迫されたり、血液の流れが悪くなると、新し い骨を作る働きが抑えられます。
そのために、もっとも強い負担がかかる股関節と膝関節では、骨が磨り減る早さに、新し い骨を作る速度が追い付かなくなってしまうのです。
そのために股関節と膝関節がすり減って、変形性股関節症と変形性膝関節症になると考え られます。
股関節痛に対する施療で、骨盤の変位を調整することの重要性が分かっていただけたと思 います。
骨盤変位の矯正は、別途研修となります。 整体法独習教本の中の実技にも、多くの骨盤調整法が紹介されています。


第8節 患者さんにやってもらう自宅療法(股関節運動)

股関節痛は、前期・初期・進行期・末期と進みます。 最も痛みが強いのは進行期で、末期になると動かなくなるので、かえって痛みは軽くなる こともあります。 多くの場合、進行期で手術を勧められるようです。 手術をしない保存療法では、前期・初期の状態を維持することが目標となります。

① 変形性股関節症の関節運動(痛みがない場合)

運動不足・体重の増加・老化などで、筋肉が弱くなり、弾力性がなくなるのを防ぐ ストレッチ運動です。
股関節に痛みはないが、 時々違和感があり心配という人、または健康な人の予防に効果的です。
下図のストレッチができるようになると、股関節痛は予防できます。 しかし、無理をすると腰や股関節には逆効果です。少しずつ、少しずつ…。

② 変形性股関節症の関節運動(痛みがあった場合)

もし、強い痛みがある場合は、安静が大切です。 無理をしないでしばらく休めば、炎症も治まり痛みは和らぎます。
ただし、長く動かさないでいると、 廃用症候群と言い、筋力が落ちて症状が悪化するのです。 はいようしようこうぐん
股関節痛の場合も同じで、 長く動かさないでいると下半身の筋肉が衰えて股関節を支えられなくなります。

両足を開いて座ります。
膝をできる限り 上げて、下げます。 ゆっくりと行います。 上下往復5回。
膝を上げたままで、 外旋・内旋各5回。
膝を支点に足先を内側に動 かし、上下運動を各5回。
膝を支点に足先を外側に動 かし、上下運動を各5回。
注意 痛みの激しい人は止 めましょう!
予防のために、健康な側の股関節も行いましょう。

③ 変形性股関節症の筋力増強運動(痛みがあった場合)

この運動は、病院でも保存療法や手術後のリハビリなどで活用されている運動療法です。
股関節に異常があると、 お尻まわりの筋肉が落ちてお尻のふくらみが小さくなります。 これは股関節の周囲にある筋肉が衰えてこわばり縮むためです。
お尻の筋肉の中で最も衰えが激しいのは中臀筋です。 次に、腸腰筋・大臀筋が衰えます。
中臀筋・腸腰筋・大臀筋を緩やかに鍛えると、 変形性股関節症の進行が抑えられ、 痛みも改善されます。
これも、やり過ぎは逆効果ですので、整体師が回数指示することが必要です。

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