2017年3月11日土曜日

整体実技|膝の痛み

第1節 膝痛の概況

65歳以上の女性の、なんと4割が膝関節に痛みや不安があると言われています。
推定患者数は1,000万人です。
この膝痛の多くは、変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)と言う病名で、
軟骨が削られて骨が変形してしまうために、この名前がつけられています。
高齢者の膝痛の原因の大半が変形性膝関節症と言われています。

最近、変形性膝関節症について、なぜ痛みが起こるのか、なぜ膝の軟骨が失われるのか、
詳しいメカニズムなどが明らかになってきました。

軟骨細胞が削れてしまう第一の理由は、過激な運動や老化が直接原因ではなく、
軟骨細胞が酸素を得られないために死んでしまうことです。

軟骨細胞が死んでできた軟骨の欠片が膝の内部を漂うと、滑膜(かつまく)を刺激して炎症を起こします。この炎症こそが、痛みの原因なのです。

変形性膝関節症の膝は、軟骨が削れるから痛いのではなく(軟骨には神経がありません)、
削れた軟骨が滑膜を刺激して炎症を起こしたり、関節部に骨棘(こっきょく)ができて関節組織を刺激するから痛いのです。

cf:骨棘 … 骨の一部が骨端部付近で棘状に突出したものを言います。
       変形性関節症などでみられ、脊椎、膝関節に好発します。
       骨棘とは本来は骨ではなく、
       骨に付着している靭帯や軟骨が骨化した部分をいいます。
       原因としては変形性関節症や骨粗鬆症等で、骨とそれに付随する靭帯や
       軟骨の損傷が生じ、その修復過程としてあらわれます。
     滑膜 … 関節包内側の襞状の膜で関節液(滑液)を分泌して軟骨を栄養すると共に、
                  老廃物を排出します。
      関節液にはヒアルロン酸が豊富に含まれます。
                軟骨には血管がなく、軟骨細胞への栄養は関節液に依存しています。
                  そのため滑膜には血管が豊富に分布しています。

膝に水がたまるのは、風邪や花粉症などで鼻水が出るのと同じく、身体の防御反応で、関節に炎症が起きているからであり、炎症を起こす病気があるからです。

膝の水をぬくだけでは何の解決にもなりません。たまった水は本来の関節液とは違う性質になっているので、原因を知る大きな手掛かりになります。


第2節 膝関節の構造

膝痛を患う人は、以前から腰痛を患っていることが多くみられます。

腰椎や骨盤の変位による腰痛から膝痛に進行する場合があります。

膝前部の神経は右図のように腰椎から出ています。
即ち、膝の血流などは腰神経に統括されています。
従って、腰部が悪くなると、膝の血流や神経の働きが悪くなり影響を受けます。

初期では、軽い腰痛で、これが慢性化し、
中期になると、腰の痛みだけでなく、臀部や下肢の方に影響が出ます。
更に、筋肉が支えている膝の動きが悪くなったり、
腰も、足も、膝も、痛くて正座できない状態になります。

膝関節の、特に、前部の筋肉は腰椎から出ている神経に統括されています。

膝関節痛の早期解消には腰部の施療も大切であることを記憶して下さい。

膝関節の構造については、下の図をご覧下さい。



第3節 膝痛の原因      

損傷の半月や十字靱帯など個別の部位別でなく、
原因別に分けると、下記の原因が多いと言われます。

(1)  変形性膝関節症
(2)  関連痛
(3) 膝関節捻挫(血腫・水腫がある急性期は病院へ)
(4) 手術後の痛み(半月板など)

膝の痛みで最も多いのは内側痛で、次に前面、後面と続き、最後が外側痛です。
          
捻挫・骨折など明らかに膝関節に原因がある場合を除いて、
これらの多くは変形性膝関節症か仙腸関節機能異常からの関連痛
と考えられてきています。


急性な怪我で歩く事もできないような状態では、
膝周辺の靱帯断裂が予想されますし、又、半月板の損傷が考えられます。
このような状態では、むやみに膝への直接施療は慎まなければなりません。

アプレー圧迫テスト・アプレー牽引テスト・膝関節引き出し徴候などの
整形外科的検査法で、顕著な陽性の場合は、整体施療は不適切な場合もあります。

ここで説明する施療法は、主に慢性的な膝痛に対する施療です。

膝痛に限らず、
治療法は、患者さんの症状や体質によって、効果があるものと無いものがあります。
以下に挙げる施療法を組み合わせて効果を上げましょう。


第4節 膝痛の施療法 その1

東洋医学における治療穴    

① (前部)膝上二穴(しつじょうにけつ)・鶴頂(かくちょう)・内膝眼(ないしつがん)・外膝眼(がいしつがん)・犢鼻(とくび)・血海(けっかい)・梁丘(りょうきゅう)

② (内側)曲泉(きょくせん)(膝窩横紋内側端(しっかおうもんないそくか))・膝関(しつかん)(曲泉直下1寸)・陰陵泉(いんりょうせん)

③  (外側)足の陽関(ようかん)(大腿骨外側上顆直上)・陽陵泉(ようりょうせん)

④ (後面)委中・委陽・陰谷 

⑤ (支配神経である腰神経の圧迫を除く)関元兪(かんげんゆ)(L5/S1)

* 押圧でいやな痛みがある場合は、陰圧(中国では整膚(せいふ)と言います)で施療します。
  皮膚をつまんで引っ張る手技です。皮膚と筋肉の間のリンパの循環を改善して自然治癒力を増進します。


第5節 膝の整体法 その2

① 疼痛(とうつう)は、下腹神経(交感神経)に支配されます。
  L2・3・4を圧しては放ち圧しては放ちを繰り返し、下腹神経を活性化します。
  時間は、1カ所につき、1から2分間です。

② 腫脹(しゅちょう)・炎症は、骨盤神経(副交感神経)に支配されます。
  S1・S2を操作します。
  第1仙骨孔(上髎)及び第2仙骨孔(次髎)を圧迫して、骨盤神経を抑制します。
  時間は、1カ所につき、1から2分間の圧迫操作です。
               
③ 股関節・骨盤の歪みを調整します。
     股関節・骨盤の歪みは、足の長短差やO脚の原因となり、膝痛に繋がります。
     仙腸関節の歪み自体が、膝痛という関連痛を引き起こすことも多いようです。


第6節 膝の整体法 その3

関節が動きにくい場合、関節そのものに原因があるのではなく、
その関節を曲げたり伸ばしたりする筋肉のどれかが異常緊張していることもあります。
それが関節の変位や病変を起こしていることがあるのです。
筋肉が不必要な収縮をつづけてしまうことで、関節の動きが制限され、いつまでたっても機能障害がなおりません。収縮している筋肉が引き伸ばされ時に痛むのです。

ここで研修するのは、オステオパシーの一種で、ストレイン・カウンターストレインと言われる手技療法です。医師のローレンス・H・ジョーンズ博士により考案されました。

カウンターストレインは、筋肉の異常収縮を解除する技法で、
身体の全ての運動筋肉に対して有効です。
関節をもっともらくな位置(角度)にもってゆき、痛みを除去する治療法です。

従来の手技療法による椎骨矯正法とは、正反対のテクニックを用いる画期的なもので、 椎骨矯正に一大革命をもたらしたと評価されています。

それまでのカイロプラクティックや整体では、椎骨が右にずれている場合には、右から正常な位置に押し戻すやり方(スラストまたはアジャスト)が常識でした。
しかし、この方法はかなりの熟練を必要とし、高齢者の場合などには、危険が伴います。

それに対して、このストレイン・カウンターストレインというテクニックは、
全く逆で、椎骨が右にズレているのであれば、さらに右にズレるような体位をとらせます。

一見矛盾しているように思いますが、拘縮している筋肉に対し、さらにそれを助長させるような体位を取らせることで、中枢神経から筋肉の拘縮を緩める様に指示を出させているのです。

つまり、筋肉の拘縮しているために椎骨がずれるのですから、筋肉の緊張を解いてやれば、椎骨は自然に元の位置に戻るというわけです。

最も痛みが軽くなる方向、いちばん楽な姿勢に関節をもってゆくと、
異常収縮をしている筋肉を、めいっぱい「たるめる」ことができます。

そして、そのまま、しばらく置いておくと(90秒以上が適度であるという研究結果です)、「もうその筋肉を収縮させなくてもいい」ということを脳が学習します。
すると、脳は収縮命令のインパルスを出すことをやめます。
後は、関節をゆっくりていねいに戻してゆけば、筋の異常収縮が軽減されます。

① 屈曲異常の場合
  正座ができない時など、曲げると痛みを感じる場合

患者は仰臥位で、力を抜いてもらいます。

患者の膝下のふくらはぎに、枕などを当て、
患者の膝上5cm上部に約25kgの圧を加え、
もう片方の手で患者の下腿を上に持ち上げるようにし、
内側に少し捻りを加えて、90秒間静止します。

患者が痛みを訴える時は、やり方が間違っているか、他のところに原因があるかもしれません。


② 伸展異常の場合
  膝を伸ばす時など、伸ばすと痛みを感じる場合

今度は伸ばす時に痛い場合の対処法です。

やり方は屈曲異常のやり方と大体同じですが、枕などの位置と術者の手の位置が少し違います。

患者の膝上の大腿部裏に、
枕などを当て、
膝頭から5cm下部に約25kg圧を加え、
片方の手は踵を上に持ち上げ、
内側に捻りを加えて、90秒間静止します。



③ 膝内側や膝外側の異常への対処法

患者を椅子に腰掛けさせ、脱力させます。
膝の角度は、最も痛みが緩和される角度です。
患者が痛くない方向へ捻りを加え、90秒間静止した後、ゆっくりと元に戻しますと、痛みは軽減し、早く改善します。

右図は、内側側幅靱帯が圧痛点の場合です。
痛くない方向に膝を捻ります(この場合は内旋です)。
圧痛点が無くなったらOKです。
時間は90秒間です。


右図は、外側側幅靱帯に圧痛点がある場合です。
痛くない方向に膝を捻ります(この場合は外旋です)。
時間は90秒です。
痛い箇所の筋肉・靱帯を緩めることがポイントになります。


④ 膝の前側、特にお皿の周囲が痛いとき

右図を、膝蓋骨と考えてください。
下記の方向に、
少し強めに5秒ほど、5回ずつ押しつけます。
順番はやりやすい順番で結構です。

強い痛みを感じる方向は施療しません。
この方向を覚えておきます。

A ⇒a      a⇒ A
B ⇒b      b⇒ B
C ⇒c     c⇒ C
D ⇒d     d⇒ D

以上の施療を行うと、一番痛みを感じる方向が分かります。
この一番痛みを感じる方向と逆方向に強めに押しつけます。
90秒間経ったらゆっくりと元に戻します。


第7節 膝の整体法 その4

(1)まず、自分の膝を触って、どこが痛むか捜します。

膝そのものが故障したのではなく、膝周辺の筋肉や腱などが拘縮して、膝及び膝周辺に痛みを感じる場合に効果があります。

この場合は、膝が痛みを発したときに膝周辺をマッサージしてもあまり効果はなく、
なかなか痛みが緩和されることも少ないようです。

自分自身の膝を4分割してください。
つまり膝の下外側、下内側、上外側、左内側という具合です。
このように4分割に、膝裏を加えて、
具体的にどの部分が一番痛みがあるかを検証します。

どの方向が特に痛むということが判明した後は、
同じ方向につながっている筋肉と腱を念入りに施療してください。

① 膝上外側の痛みは、
  中臀筋・大腿筋膜張筋・大腿直筋・外側広筋が施療部位です。

② 膝上内側の痛みは、
  大腿直筋・中央広筋・内側広筋・内転筋群が施療部位です。

③ 膝下外側の痛みは、
  下腿三頭筋・前脛骨筋・腓骨筋が施療部位です。

④ 膝下内側の痛みは、
  下腿三頭筋が施療部位です。

⑤ 膝裏の痛みは、
  半膜様筋・半腱様筋・大腿二頭筋・下腿三頭筋が施療部位です。


以上のような施療で、驚くほど早く痛みの緩和が見られます。



第8節 膝の整体法 その5

整体施療だけでは、膝関節痛を解消し、予防することは困難です。
患者さんに教えて実行してもらいましょう。

この節では、変形性膝関節の、膝痛の和らげ方と、治療して治った膝痛の再発予防、そして膝痛にならないための予防法を研修します。

急性の痛みが沈静化したら…。
「安静」にするのが一番と言う治療法は、間違いだと分かりました!

軟骨には血管が通っておらず、自力で酸素を得ることができません。
良かれと思って安静を心掛け、膝を動かさないでいると、
軟骨細胞は酸素を得ることができないのです。

安静にしていた結果、
削れた軟骨が滑膜に炎症を起こし、さらに膝痛の悪循環までも生み出していたのです。

最新研究の成果で、膝痛に関する新しい事実が発見されています。
なぜ痛みが起こるのか、なぜひざの軟骨が失われるのか詳しいメカニズムなどが明らかになってきました。

わずか10分程度の体操を朝晩1日に2回繰り返すことで、治りにくいとされてきた多くの膝痛が治ることが分かってきたのです。

① 脚上げ体操(主に膝前側の痛みの回復法)  1セット=左右各20回

大腿直筋と腸腰筋を動かして鍛えます。
仰臥位に寝て、片方の膝を立てます。反対側の膝を立てると腰に負担がかかりません。

脚が曲がらない人は伸ばした状態でOKです。
膝が伸ばせない人は、曲がったままの状態でOKです。

伸ばしたほうの脚を、膝を曲げずに床から10cm上げ、
5秒間静止してゆっくりと戻します。
上がる人は50cm上げます。

20回繰り返したあと、反対側の脚も同様に行います。
② 脚の横上げ体操(主に膝外側の痛みの回復法)  1セット=左右各20回

中臀筋・小臀筋・大腿筋膜張筋を鍛えます。

横向きに寝て、下側の脚を曲げて少し前に出します。
下側の脚は直角になるぐらい曲げると体が安定します。

上の脚を伸ばしたまま、床から10cm上げ、5秒静止して、ゆっくりと戻します。
上がる人は50cm上げます。

20回繰り返したあと、体の向きを変え、反対側の脚も同様に行います。
膝が伸びない人は曲がったままの状態でもOKです。

③ ボール押しつぶし体操(主に膝内側の痛みの回復法)  1セット=20回

内転筋群を鍛えます。

床に腰をおろし、膝を少し曲げ、膝に当たらないようにももの間にボールを入れます。
ももにゆっくり力を入れてボールを強くはさみ、5秒間静止して、力を抜きます。

ボールは直径20cmくらいのものが使いやすいと思います。
ボールを持ち上げたり、膝を曲げすぎると、膝が安定しないので、ボールは床につけて行います。
ボールの代わりに硬めのクッションやタオルを丸めて使っても良いと思います。

④ うつ伏せ膝曲げ(主に膝裏側の痛みの回復法)   1セット=20回

膝の裏に対しては、伏臥位で、膝を直角に曲げて、左右前後にフリフリします。
腓腹筋とヒラメ筋などを緩めます。

その後、膝を臀部に力を入れて、5秒間押しつけ、元に戻します。 

* わずか10分程度の体操を、朝晩1日に2回繰り返すことで、
  治りにくいとされてきた多くのひざ痛が治ることが分かってきたのです。

運動による刺激で、酸素を含んだ関節液がより多く軟骨に染みこみます。

治療としての膝の体操の有効性は、日本整形外科学会の調査でも認められていています。全国140人の患者の協力の下で行われた実験では、
膝の体操が、階段の上り下りに苦労していた患者さん達も、自分の足だけで階段を上れるまでに回復しました。
特に長期的に見た場合、効果は大きくなります。
一般的には、2ヶ月から3ヶ月で効果が現れるようです。

* 整体施療に加えて、このような膝体操を毎日続けるように指導してください。
  

まさか!ひざ痛対策に落とし穴 → 安静にさえしていれば……はダメ
新事実!軟骨は酸欠で無くなる → 安静にしていると軟骨が呼吸困難で修復しない
治療・予防にも効く!膝の体操


第9節 膝の整体法 その6

操体法     

外傷や炎症など以外の動作痛は、膝の過緊張により、腰背部・膝裏・大腿後部・大腿四頭筋・膝頭上部に過緊張や動作痛が診られます。

① 大腰筋 ⇒ 腰背筋

膝の痛む同側の腰背部に緊張があれば、その原因となる逆側の大腰筋を施療します。
椅子座位で、健側の足先で床を踏み踵を挙げ内側に向けさせます。
上体は膝の患側に捻ります。   
             
② 膝裏 ⇒ 大腿後部

仰臥位または座位で膝を立て、足先を左右の気持ちの良い方にけ上体は逆側に捻ります。
             
③ 大腿内前部 ⇒ 仙腸関節

椅子座位。患側の足首を椅子に乗せたまま足首だけはずし、足先を底屈外転させます。
上体は同側に捻ります。


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