第1節 原 因
朝起きた時、首の後ろ側や左右どちらかの側が痛み、ちょっと動かしても激痛が起こったり、首を動かせなくなることがあります。
頚部の疲労や冷え・肩こりなどで頚部筋肉の状態が悪くなっている時や、不自然な姿勢で寝ていた翌朝などによく起こります。
これは頭を不自然な角度に曲げていると、頚部の筋肉が引き伸ばされて微細な断裂することやフィクセーションまたはサブラクセーションと云う頚椎変位を来すことにより起こると考えられています。医学的には「急性頚筋痛(きゅうせいけいきんつう)」と云います。
このように寝違いとは、一般的には、首に無理な姿勢で寝たことにより一時的に首の筋肉を痛めたものですが、寝違いの原因は普段から首に負担がかかるような身体の歪みの問題を抱えているケースが多々あります。
即ち、寝違いは身体全体の歪みに問題がある場合が多く見られます。
従って、寝違いと云う頚部の症状でも、痛みが和らいだ後は、身体全体を診て、歪みを解消しておく必要があります。
また、内臓に原因があって寝違いが起こることもあります。
例えば、肝臓が解毒する能力以上にお酒を飲んでいると、肝臓は内臓体表反射で、主に身体の右側の筋肉と繋がっており、、肝臓が疲れると背中の菱形筋などが過緊張となります。菱形筋などが縮むと、背骨の棘突起は縮んだ筋肉に引っ張られて右の肩甲骨の方へ傾きます。胸椎の棘突起が右に回転すると云うことは、胸椎が左に回旋すると云うことですので、胸椎と繋がっている頚椎は同様に左に回旋します。
このような状態では、顔を右に向けるのに少し余分な力が必要となります。
寝てしまって意識がなくなると、楽な方に顔を向ける時間が多くなり、長時間動かさない引っ張られている筋肉は元の状態に戻ろうとして過緊張してしまいます。
そして、朝起きると右に首が廻らない状態となります。
すごく腹を立てた後のも、東洋医学では肝を傷つけますので、右を向けない寝違いとなります。
内臓はそれぞれ感情とも関係があって、肝臓は「怒り」の感情で障害を受けます。
怒喜憂悲驚恐(どっきりしてゆうひにきょうきょう)のような感情は各々どんな臓器を傷つけるか…。分からない人は東洋医学の五行色体表を復習して下さい。
内臓が原因で、右を向いて痛い寝違いがあるということは、内臓が原因で左を向いたら痛い寝違いもあります。
左を向くと痛い寝違いには、食べ過ぎによる胃が原因となる寝違いやケーキ・ジュースなど甘い食物を摂りすぎた膵臓が原因の寝違いなどが考えられます。
身体の左側の臓器が弱ると左側に症状(左に首を回すと痛む寝違い)、右側にある内臓が弱ると右側に症状(右に首を回すと痛い寝違い)が出ます。
以上、寝違いの原因をまとめますと、次のようになります。
1)頚椎の変位(フィクセーション・サブラクセーション)
2)頚椎捻挫で首の靱帯を損傷
3)無理な姿勢の継続で斜角筋や頚部僧帽筋などが炎症を起こしている筋筋膜症
4)内臓の疲れ(背部筋肉の過緊張 ⇒ 胸椎の変位 ⇒ 頚椎変位 ⇒ 頚部筋肉の拘縮 )
注意1
多くの臨床結果では、2)3)4)でも頚椎変位を起こしています。
注意2
足首の捻挫の場合に局部を揉まないように、熱を持っている損傷箇所は炎症を起こしているので温めたり揉んだりしてはいけません。
また、急性期は温熱療法もNGです。最初は楽になりますが、後で更に悪化します。
むしろ冷却療法が効果を発揮します。
寝違いはそのままにしていても、1週間もすれば痛みがなくなりますが、頚椎変位を放 置していると、腕・手・指の痛みや痺れの異常が出たり体調に影響することもあります。
また、首には迷走神経という脳神経が頸動脈に沿って走行しています。
迷走神経は胸腹部の内臓の働きをコントロールしている副交感神経です。
首のコリや頚椎変位は、迷走神経に影響を及ぼし内臓の傷害となる可能性があります。
注意3
1週間しても、首の痛みが軽減しない・首の痛みの強さが増す・肩や腕まで痛むような症状の時は、寝違えに似た症状を表す他の病気が考えられます。
頚椎ヘルニア・頚椎症などが考えられますので整形外科医の診察をお薦めします。
第2節 施療法
筋・筋膜や靱帯の損傷で、熱を持っている場所を押圧してはいけません。
熱を持っている場所は、毛細血管から出血して炎症を起こしていますから、押圧すると悪化させてしまいます。
脈動がある発熱部には、氷をタオルに包んで冷やす(アイシング)と痛みが和らぎます。
(1)治療手順
① 落枕(らくちん)・外労宮(がいろうきゅう)・後谿(こうけい)
② 捻挫穴(ねんざけつ)
①②の響きのあるツボに施療します。頚部の痛みを和らげます。
③ 肩井・落頸(らくけい)・天柱・天容(てんよう)・風池
④ 気舎(きしゃ)・缺盆(けつぼん)
⑤ 筋肉の反射を応用して肩上部叩打による頚部筋肉の緩解
⑥ 操体法による調整または斜角筋や頚部僧帽筋の運動点を使った整体法
③④⑤⑥により頚部筋肉を緩解します。
⑦ キネシオテーピング
患部を保護し、リンパ還流を促進して、回復を早めます。
⑧ 身体の歪みの解消
寝違いの痛みが軽減されてから施療します。
⑨ 内臓の調整
(2)整体施療の詳細
① 落枕・外労宮・後谿で、響きのあるツボの刺激を数分間行います。
この際、ツボに刺激を与えながら、受者に、息を吐かせながら痛くない方向に数回 首を廻させます。
落枕 … 人差し指と中指の間。
指の第3関節より1cm手首側に向かったところに取ります。
外労宮… 拳を握ったときに薬指と中指の間を労宮と云いますが、
同じ位置で手の甲側を外労宮と云います。
後谿 … 手を握ったときに小指の下にできる横紋の端に取ります。
このツボは小腸経に属するツボです。小腸経は上肢の外側から肩、
首そして顔面部へと巡ります。従って後谿もこういった所に生ずる痛みの
治療に用いますが、中でも寝違いに効果があります。
② 捻挫穴を刺激して痛みを和らげ、頚部筋肉を緩解します。
この際、ツボに刺激を与えながら、受者に、息を吐きながら痛くない方向に
数回首を廻させます。
捻挫穴 … 手の平を胸に向けて肘を曲げた状態で、 中指を動かすと、ピクピク動く腕橈
骨筋の頂点に取ります。
肘窩横紋(ちゅうかおうもん)から3寸下方です。
足首の捻挫にも有効です。
③ 肩井・落頚(らくけい)・天柱・天容(てんよう)・風池を刺激して、
頚部筋肉を緩解します。
落頚 … 乳様突下部の胸鎖乳突筋付着部に取ります。
天容 … 下顎角と胸鎖乳突筋の間に取ります。
頚動脈や神経が通るので強く圧しては
いけません。
④ 気舎(きしゃ)・缺盆(けつぼん)を刺激して、頚部筋肉を緩解します。
気舎 … 胸鎖乳突筋の鎖骨頭と胸骨頭の間(小鎖骨上窩)に取ります。
缺盆 … 鎖骨上窩中央(大鎖骨上窩)に取ります。
⑤ 姿勢を正した座位で、僧帽筋に沿って軽く叩打して、頚部筋群を緩解します。
次に廻しやすい方に首を廻し傾け、2、3分行います。
肩たたきは、昔から歌にもあるように肩こりを解消する民間療法でした。
「母さん、お肩を叩きましょう!
タントンタントンタントントン…」
この民間療法が、実は整体法としても筋肉緩解や
椎骨の変位効果の解消に非常に役立つことが分か
ってきました。
⑥ 操体法による頚部調整または斜角筋や頚部僧帽筋の運動点を使った整体法
A 操体法による頚部調整
前屈後屈・左右回旋・左右側屈のうち、痛みのない方向へ動くように指示して、
それに軽く抵抗をかけて調整します。
B 斜角筋や僧帽筋の運動点を使った整体法
斜角筋と僧帽筋の運動点は、C2の横突起部とC6の棘 突起際です。
先ず、C6の棘突起の際を圧定して受者の首の回旋運動をさせます。
痛みのない方向に行います。
次に、C2の横突起部を圧定して受者の首の回旋運動をさせます。
痛みのない方向に行います。
C6とC2を同時に施療すると更に効果が高まります。
受者の後部から施療します。
C6を片手の母指で圧定しながら、
他方の手を受者の顔前面から廻してC2に中指を当てます。
この状態で、操者の受者の頚部を回旋・側屈させます。もちろん痛くない方向にです。
注意 操体法か運動点を使った整体法のどちらか片方で施療します。
C 参照 次のような整体施療法もありますので参考にしてください。
患者を仰臥位にして、整者の両足を患者の肩に当て、軽く交互に振動を加えると
同時に、後頭骨と顎を持ち静かに牽引運動を角度を変えて行います。
⑦ キネシオテープ
痛みのある筋肉に沿ってテーピングします。
斜角筋や僧帽筋頚部に痛みがあることが多いという臨床結果があります。
キネシオテープの貼り方は、ぎっくり腰の施療を参照にしてください。
シワを作るように貼るのがコツです。
斜角筋に沿った貼り方
僧帽筋に沿った貼り方
⑧ 身体の歪みを解消します
寝違いの痛みが軽減されてから施療します。
上級者は、股関節や骨盤の歪みを診て施療しましょう。
ここでは操体法で身体の歪みを解消してみましょう。
* 首の障害は、斜角筋・僧帽筋などの影響が強いですが、その土台となる腰そして肩の処理から施療します。
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